アロスタシスとホメオスタシス

 心身医学を学ぶときに、最も基礎的な概念として、キャノンのストレス学説、ホメオスタシスを学んだ。心身医学の目標は、ホメオスタシスの改善であると思っていた。キャノンのホメオスタシス理論は1920年頃に提唱された学説であり、長い間ストレスを考える上で中心的な役割をしてきた。私のホームページの心身医学の解説の中にもホメオスタシスのことしか記載していない。ホメオスタシスというのは、ざっくりいうと、生体が内的均衡をたもつために、常に微調整し続けているというものである(血圧、体温、発汗など)。アロスタシス理論は1980年代に提唱されたようだが、私は全くしらなかった。私が心身医学を学び始めたときにはすでに提唱されていたわけだが、教えてもらった覚えはない。私がその理論を知ったのは半年くらい前のことで、それを知ったときに愕然とした。慌ててアマゾンの書籍を検索したら、Brain and Nerveの2023年の特集号しかなかった。アメリカのアマゾンで検索してもでてこなかった。なぜだか、最近は専門書ではない方向性でアロスターシスを題材にした書籍が目につくようになった。私がその理論をしったのは、当院で長年やっているニューロフィードバックについての文献検索をしていたときに偶然発見した。Neurofeedback and neural self-regulation: a new perspective based on allostasis という文献で、ニューロフィードバックはアロスタシス機能を向上させる可能性があるという内容である。そこで、アロスタシスという機能が、先を予測して生体の恒常性を維持する機能であり、脳機能が大きく関与しているということを知った。考えてみれば当たり前のことであるが、ホメオスタシス理論に縛られすぎていて、そういう発想がなかった。ヒートショックで多くの人が命を失うのに、サウナで高温-水風呂を繰り返しても大事にならないのはなぜなのか、それもアロスタシス機能と考えれば理解できる。予測していなかった急激な変化には対処できないが、予測の範囲内の急激な変化には対応できるということだろう。ホメオスタシスだけで生体恒常性を維持していくのは効率が悪すぎる。体温が上がってから慌てて調整にはいるより、おそらくこうなるだろうという準備状態にあれば余裕で対処できる。この先を予測する脳機能は経験、学習によって組み込まれていくものである。初めてやることは緊張してドキドキしても、うまくできた経験があることを行うときそれほど強い反応は起きないことは多くの人が経験しているだろう。この先を予測して調整するという機能が生体に防御的に働くならば素晴らしいことであるが、そうとも限らないところがやっかいである。つまり、一回目の経験で大失敗や強い恐怖を経験してしまえば、二回目にはやる前から不都合な反応が起きてしまうことになる。生体はなんとか環境に適応しようとするので、ある程度無理なことや大変なことでも何とか調整してバランスを維持しようとする。短期的には何とかなっても、それが累積していくことをアロスタディック負荷といい、過度に累積すると心身の失調にいたることになる。そうならないためにも、脳の柔軟性、つまり過度に我慢するのではなく、衝撃を分散して調整する力が必要なのである。

このブログの人気の投稿

考え方を変えるのは簡単なのか?

「しょうがない、まあいいか」

生物学的視点1